■毎年のように同じ目標を立てていないか?
経営のセミナーに出ると数字で目標を設定することの大切さが協調されます。
私も「3年間で売り上げ倍増」といった目標を毎年のように立てています。
しかし、5年前にも同じような目標を立てていたし、売り上げはあまり高くなっていません。
もちろんこの目標を立てなかったら、もっと悪い結果になっていたのかもしれませんが、何かが違っているという印象です。
世間を見回してもいろいろなところで数字の目標が立てられています。同友会でも今年の増強目標として6人を入会させるとか、2050年サッカーワールドカップ優勝とか、先日石破首相は最低賃金1500円を実現させるといっていました。
こうした目標設定は意味があるのでしょうか。
あなたへの問い
□あなたの周りにどんな数字目標がありますか。
■何が問題?
こうした数字での目標設定を戦略策定だと考えてしまいがちですが、目標は戦略ではないことが「戦略のの要諦」(※1)では協調されています。
例えば、3年間で売り上げ倍増という目標は何の根拠もなく恣意的に決められた数字でそれを決めたからといって何か自動的に戦略が生み出されるものではない。実際に大企業でも数字目標を設定してパワーポイントの数字を調整して戦略を作ったつもりになっているという例がよくあるとのことです。
確かに、売り上げ倍増ということで数字を各年、各月に計算し直して今月はこの数字を達成しなければいけないという数字が出たとしても、それは目標を管理しているだけで、何をどのようにして売り上げをを伸ばすのかについては何も述べていない。
むしろ、無理な数字設定を実現しようとして企業風土が異なる他の組織を合併したりするなど数字が先走りしすぎたM&Aも見かけられたりします。
2050年W杯優勝という設定も、私が覚えている限り初めて日本がW杯に出場した1998年にも20年後にはW杯優勝という設定をしていたので、現時点2024年には世界の頂点に上り詰めているはずです。以前に比べれば日本のサッカーのレベルが格段に上がっていること自体は確かだとはいえるでしょうが、あの目標はどうなったのだろう?と思わざるをえません。
それがまた同じように2050年W優勝という何の根拠もない目標が出てきて、26年も経てばみんな忘れているだろうという、無責任な目標設定に思えます。
一方で、石破首相の最低賃金1500円は期限を決めていないものの、日本の総理大臣が発言したものですからこれは重い意味をもっていますし、総理大臣として一定の意思表明をしたのだと思います。
さまざまな数字の中から最低賃金に注目して今後の政治が動くということですから、漠然としているとはいえ、目標としては意味があるようにも思えます。
例えば、中小企業の賃金を上げるために中小企業が地方で活躍できる環境を整えてくれるのであれば、中小企業の経営は良い方向に向かい、最低賃金を上げることにつながるかもしれません。石破首相は地方創生を政策としていることからこのような理解ができます。
政治的な指向はおくとして、数字で目標を設定することが悪いのではなく、戦略がないのに数字で目標を設定してその気になっていたのが悪いのだと気づかされます。
あなたへの問い
□数字で目標を設定することの意味は何でしょうか。
■解決へのアプローチ
多くの場合、戦略がないのに数字の目標だけが先行してしまっているということは、これまで戦略をきちんと立ててこなかったということだと思います。
実際のところ、私も外部環境や自社の強みなどから分析はしてきたものの、戦略を作るというところは、数字で目標を設定することにすり代わってしまい、何をどうするのかについて時間をかけて考えてこなかったという反省があります。
つまり数字設定よりも先にきちんと戦略を策定するというアプローチが必要だったのです。
なぜこんな問題があちこちでおきているのか?、というと、著書(※1)でも述べられていますが、戦略策定は簡単でないということに尽きると思います。
戦略の策定は、長く苦しいプロセスであり、フレームで分析したらそこから出てくるようなものではないということです。
多くの経営書では成功例がいとも簡単に、またスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのような天才のひらめきで起きたように書かれていますが、戦略策定は長くて困難な道のりで、多くの事実が複雑に絡み合っているものを解きほぐすような作業だとされています。
要するに、戦略策定は時間と労力をしっかりとかけて検討しなければならないということだと思います。
あなたへの問い
□戦略を作るのに時間と労力をかけていますか。
■最重要ポイントに焦点をあてる
今年のプロ野球セリーグは3位だった横浜DeNAベイスターズが日本シリーズに進出しました。
巨人や阪神が強かったというイメージでしたので、横浜が勝ち上がったというのは意外でした。
スポーツの世界でも何が勝敗を決するかについては指揮官の力量に負うところが大きいと思います。
経営の問題でも様々な事実が絡み合う中で一番重要なポイントに焦点を当てて資源を集中させることによって事態を好転させることができるとされています。
中小企業では、サービス業であれば集客でしょうし、製造業や建設・建築であれば採用であることが多い。簡単に言えば、仕事がないか、仕事はあるが人がいないか、のどちらかだと思います。
うちはサービス業なので、やはり集客が最重要ポイントになります。
先日は同友会の例会でも市場開拓がテーマとなっていました。ここでは新しい顧客(市場)に注目するか、新しい商品・サービスに注目するかという観点から市場開拓を検討していました。
いずれにしても戦略を作るための第一歩としては、障害となっている課題を適切に設定することだとされています。
その課題は要石のようになっていてそれを取り除けば、全体が一気に崩れてくるというものです。又は、がんじがらめに閉ざされているが、ある一転を突破すると他の部分も自然とほぐれてくるような鍵となっている部分になります。
そうした最重要ポイントに集中することが必要になります。
そしてそれともう一つ重要なこととして、自社が取り組めばそれを取り除けるというものでなければならないということを忘れてはいけません。この取り組みが可能という条件を外してしまうと、世界平和を実現するとか、自社のサービスで人類を救済するとか、重要だが実現不可能な課題を設定してしまうことになるからです。
理念やビジョンである程度長期的な願望を設定すること自体は否定しませんが、戦略という具体的な場面で自社が取り組んで実現できないような課題を設定してしまうことは現に避けなければならないことです。
その意味で売り上げ●%アップという目標設定もほとんど意味をなさないことがわかります。
このような障害が何かを自社が実現できる範囲で課題を設定することがとても難しく、しかし重要になってくるのです。
そして、さらに、サービス業であれば、インターネット、AI技術が市場に対して大きな影響を及ぼしていることは間違いなく、この環境変化をどうとらえるか、を検討することなくしてサービス業の集客という課題を考えることはできないと思います。
あなたへの問い
□集客や採用の問題で一番重要な障害は何ですか。
■非対称性が自社の強みなんだ
2人の力が拮抗したボクサーがいる。どちらが勝つのだろうか。同じように見えてても、2人の間に身長や腕の長さ、体力、経験など違いが多数あり、これが非対称性となる。そしてこの非対称性から優位性がうまれる。
自社の強みを考えてみた場合、自社として何年もの間、同じ分野で業務をこなしてきているため、当たり前になっているようなことが実は自社の強みになっていることも珍しくないと思います。
そして自社の強みは自社ではなかなか気づきにくいというものでもあるようです。
先日老舗の製造業の社長と話していたのですが、その会社はあまり他社に売り込めるような特別なことはやっていないといわれていました。ところが、よくお聞きすると、その会社にはその会社でなければ出来ないような提案をしていたり、信頼を得ていたりしています。
強みがないのが問題なのではなく、強みを知らないことが問題なのだと知りました。
中小企業は大企業とは異なり、焦点を絞って強みを生かしながら商売をしていく必要があり、他社との比較でなにが違うのか、を強く意識することが必要です。
そして、弱みと思っていたものは実は自社の特徴であって、逆にそれを生かすという考え方はいくらでもあるということはあります。中小であれば事業の方針転換は容易ですが、大企業では方針転換をしようとすれば多くの組織が影響を受けることになり、簡単ではありません。
小型のモーターボートであれば自由に海を動き回れますが、大型船であれば曲がるのにも時間がかかりますし、大きな港がなければ陸に上がることもできません。トヨタやソニーが飲食店を始めれば、どうしたんだろうとニュースになるでしょうが、うちが飲食店を始めても誰も何も言いません。
だから強み、弱みという区別の仕方ではなく、違い(非対称性)に注目する必要があると思います。
あなたへの問い
□あなたの会社が他社と違うところは何ですか。
■どこなら勝てるか?
売り上げや採用で課題があるとしても、自社がもっているものを集中させてその課題を乗り越えられなければ意味がない。
中小企業では、資金も人材も限度があり、できることは限られます。だからこそ一番大切な最重要ポイントに資源を集中させて、しかも実現可能なものでなければならないことを改めて確認しましょう。
要石となっている最重要ポイントに焦点を当てることと自社のリソースで取り組めば乗り越えられるという課題を設定して、これを戦略の第一歩とするのです。
そして、これはしっかりと時間と労力をかけて検討しなければならない問題だということです。
あなたへの問い
□あなたの設定した課題は最重要ポイントをカバーしていますか。
□あなたの設定した課題は実現可能ですか。
参考文献
※1 「戦略の要諦」(リチャード・P・ルメルト著、日本経済新聞出版)