■企業にとっての情報の価値
企業、特に中小企業にとって、会社で扱う情報のセキュリティは悩みの種となっています。
これは、日本でも大企業で顧客の個人情報の流出が毎日のように報道され、今後は大企業から中小企業にもこのような情報流出の問題が現実的になってきているからです。
そして多くの場合、企業の秘密情報として問題になるのは、顧客の個人情報と製品情報の2つであることから、まずはこの2つに焦点を絞ってセキュリティ対策を考えるとよいでしょう。
■なぜ個人情報が狙われるのか?
最近よく報道されていますが、闇バイトはなぜ横行しているのでしょうか。インターネットのSNSだけのやり取りであれば、犯罪を命令された時点で拒否すればよいはずです。報道では「個人情報を握られていたから逃げられなかった。」として犯罪を実行したとされています。
個人情報を明かしただけで自己に不利益なことがどれほど起きるのかわかりませんが、少なくとも強盗の実行を拒否できないほどの強制力が働いていると考えられます。
また大企業では、個客の個人情報が不正なアクセスを受けて大量に流出してしまい、ランサムウェア攻撃として巨額の身代金を支払うという事態も起きています。
このように個人情報は犯罪にも深く関係する最も取り扱いに注意しなければいけない危険物なのです。
ところが、この顧客に関する氏名、住所、生年月日、電話番号といった個人情報はその個人が過去にどのような商品を購入したか、どのようなサイトを訪問し、どのような検索を行ったか、などといった履歴情報として深層学習で処理されたアルゴリズムで最適なリコメンドを行うために必要な情報です。ネットワークにより一元的に集中して管理したいという企業側の思惑もあるため、セキュリティ対策を難しくしています。
今後は、中小企業でもAIとネットワークを利用したシステム管理体制が導入されると予想されるため、個人情報の管理体制が課題となっていくことに間違いないでしょう。
中小企業の経営者としては、個人情報が大量になっていく段階で必ずセキュリティに関する対応策を施しておかなければならないことを心にとどめておくべきでしょう。
■製品情報についてのセキュリティの考え方
これに対して製品情報については、全く異なる考え方ができます。
技術やノウハウを財産として企業に蓄えておきたい場合、特許や意匠といった登録手続を行うことで社員である技術者が漠然と持っていた情報が企業に見える形で管理できる情報に変わります。
ただ特許、意匠、商標といった登録できる知的財産以外については情報の形でしかなく、これをどこまで会社の財産というのかは難しいところとなってきます。
そのような状況で、一つの手段として営業秘密として企業で管理体制を築くことによって、この管理体制下に置かれた情報についてはその企業の財産であり、従業員としても持ち出せば不正競争行為になると周知させることができます。
目に見えない情報という企業の財産を目に見える形で管理するということが可能になります。
実際に、意匠権で保護されていない3Dデータが営業秘密として保護され、取引先がこのデータを使って実質的に同一の商品を製造し販売した場合に、不正競争防止法違反として販売数量に応じた損害賠償が認めらた裁判例もあります*1。
これは意匠権や著作権、不正競争防止法の形態模倣などではカバーしきれないデザインについて一定の保護が与えられたと評価することもできます。
また製品に関する重要なデータであり、特許権の保護対象から外れてしまうようなものは多数あり、これらの貴重なデータを保護するためにも営業秘密として管理していることが不可欠となります。
そして、営業秘密として管理していれば、仮に従業員や取引先から情報が流出して競合会社が利用したとしても不正競争防止法違反として、製造や販売の中止を求めることができるようになります。
このように会社における製品情報は、営業秘密として管理することによって目に見えない漠然とした状態から、適切に管理された財産的な価値のあるものとして保護されることになるのです。
■必ず考えたい2つの視点
では営業秘密として情報を管理するために何に注意すればよいのでしょうか。
まずは従業員や担当者との関係で、就業規則、誓約書、秘密保持契約、秘密であることの周知、教育などを行い、秘密情報の管理について注意を促すことが必要です。
そして実際に秘密情報が含まれる記憶領域(フォルダーなど)についてはパスワード、認証などアクセス制限を行い、その情報が秘密であることが適切に表示され、認識できるようになっていることが重要です。
■まずは顧客の個人情報から
このように、顧客の個人情報と製品情報は全く違う観点から営業秘密として管理することが中小企業にとって、とても大切なことになってきます。
現代では、個人情報はリスクでもあり、貴重な財産でもあります。まずは、個人情報をどのように管理するのがよいか、クラウドベースに個人情報を移すときにセキュリティはどの程度考慮されているかを核にするようにしましょう。
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
電話(052)218-6790
参考
*1 東京地裁令和4年1月28日判決 2022WLJPCA01289004
(新製品の3次元データが交渉中に競合相手に流出した事例)
なお、近時の裁判例で営業秘密が問題になった事例は以下の記事で紹介しています。
http://patent-law.jp/app/webroot/news/detail/?id=11&category_id=&year_and_month=