「やめてほしい社員さん」がいるとき社長はどうすればよいか?

■「やめてほしい社員さん」の悩み

 労働問題を扱う中で会社の経営側でよく問題になるのは「やめてほしい社員さん」の扱い方です。

 こういった社員さんを無理に退職に追い込もうとして不自然な懲戒処分をしたり転勤命令をしたりして嫌がらせをすれば、自分から辞めていくだろうと考える経営者も多いようであり、労働者側から相談を受けることもあります。

 このような不相当な処分や退職に向けた嫌がらせは全体として違法になる可能性があり、最終的な解雇も無効と判断されてしまう可能性が高くなります。

 

■それならどうする?

 まず退職に向けた説得そのものが違法となるわけではないことを確認しておきましょう。

 裁判所は「退職勧奨は,その事柄の性質上,多かれ少なかれ,従業員が退職の意思表示をすることに向けられた説得の要素を伴うものであって,一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではなく,その際,使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や,引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは,それが当該従業員にとって好ましくないものであったとしても,直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない」として従業員にとって嫌な思いをしたからといって違法になるものではないことを確認しています*1。

 問題は嘘の事実を言って退職するしか他に選択肢がないかのようにして説得したり、退職しないことを明らかにしているのに執拗に説得を続けたり嫌がらせをしたすることが違法となる可能性があるのです。

 あくまでも社員さんの能力、意欲、特性などから現在の業務で成果を出せる見込みがないことなど客観的に説明することで退職に納得してもらうといった方法をとるべきでしょう。

 

■異動により能力を発揮できないか?

 また能力を発揮できない社員さんについては、本人と話し合いながら本人の同意を得て部署を異動することによって、能力を発揮できる機会を与えてみることも重要です。

 これは仮に社員さんを解雇する前提としても解雇という最後の手段を選択する前に異動により労働契約を継続する手段を検討する必要があります。

 この点最高裁判所でも、「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁昭和61年7月14日判決・裁判集民事148号281頁)。」として社員さんの能力開発による異動や転勤による業務上の必要性をみとめています。転勤命令の違法性が争われ、無効とならないと判断された裁判例もあります*2。

 これもその社員さんに対する退職に向けた嫌がらせとならないように慎重に行う必要があります。好ましくない社員さんを事実上退職に追い込むために地方都市に転勤させるような意図であってはならないということです。

 

■誠実に話し合いを行うのが基本的な方法

 退職させたい意図は敏感に社員さんにも伝わってしまうものですし、退職勧奨をしているのだから、会社にいてほしくないことを会社としても認めていることになります。

 そのような場合でも退職した後のパッケージを準備し、転職に積極的に協力するなどのサポートをすることにより社内でも不安が広がるのを回避することもできます。

 退職してほしい社員さんだからこそ最後までしっかりとサポートすることで自社の価値を高めることができるのではないかと思います。

 

水野健司特許法律事務所

弁護士  水野健司

電話(052)218-6790

お気軽にご相談ください。

 

判例

*1 横浜地裁令和2年3月24日判決2020WLJPCA03246001

 (個人面談における言動が違法な退職勧奨にあたると判断された裁判例

*2 東京地裁令和6年1月30日判決2024WLJPCA01306002

 この裁判例については以下で紹介しています。

http://patent-law.jp/news/detail/?id=42&category_id=&year_and_month=