■フリーランス保護法が施工されました
令和6年11月よりいわゆるフリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行となりました。
これまでは中小企業であれば独占禁止法や下請法などで保護されていましたが、フリーランスについては保護する法律がありませんでした。
この法律により契約書の作成義務、報酬の支払いなどがある程度確保されることが期待されています。
ただし、この法律は下請法を前提としており、いわゆる労働法としての保護はなく、最低賃金、労働災害保険、解雇禁止といった労働者を前提とする保護はなされていません。
背景としては、正社員として働く人と、非正規で働く人との格差を是正する動向の流れの中で、法的に弱い立場にある個人事業主を保護するという動向が欧米で先行しており、日本がこれを追従したものとされています。
■プラットフォームワーカーの問題
欧米では、ウーバーが大きな成長を遂げたため、このようなプラットフォームに登録して働く人たちの労働形態が問題視されるようになったとされています。
個人事業として好きな時間帯に好きな分だけ働くことができるという手軽さがある一方で、このようなプラットフォームで働く人が労働者ではないとなると、最低賃金、解雇制限など労働者を前提とする保護が全くなされないことになり、企業側が一方的に労働者を搾取するということが可能になってしまうからです。
日本ではウーバーが規制を受けたことから、例えばアマゾンの配達員などで同じような問題が起きているとされています。
これには働く側が労働組合のような団体を作り、全体で企業側と労働条件について交渉することや一定の認証制度のようなものを作り、企業も認証を取って表示することにより登録する人々に保護が約束されていることを表示するなどの制度があるようです。
すでにフランスでは、こうしたプラットフォームワーカーの働く条件を保護する体制がとられているということです*1。
■労働者の個人情報が流出する問題
またこれは個人事業主だけの問題ではありませんが、HRテック(労務管理技術)により労働者の個人情報が企業側に把握されてしまうという問題も指摘されています。
グラスやウォッチのようなウェアブルデバイスを使うことにより、労働の視線や話し方などから業務に集中できているか、顧客に適切に対応しているか、健康状態は良好かなどといった多くの労働者の情報が企業側に把握され、HRテックと呼ばれるAIによって労務が管理されるという事態が起きようとしています。
労働者が怠けていたり、顧客に失礼な言動をとっていたとすれば、AIが随時指示を出し、注意するということになります。
日本でも腕に巻くウェアブルデバイスを用いて従業員の健康管理を行うという使い方が始まっているとされています。
またエントリーシートの選別作業についてもAIにより選別するという運用がが始められようとしているということです。
欧米ではこうした動きに対して労働者の個人情報を保護しなければならないという問題意識が強いのですが、日本では個人情報保護法があるのみで、漠然と同意を得て個人情報を抜きとられてしまうという危険が高いいように思われます。
■ラーメン店の経営パートナー
福岡県の事例では、ラーメン店で深夜帯で働く夫婦が「経営パートナー」という個人事業で働いていたことから、最低賃金、時間外労働、深夜労働など割増賃金が支払われていなかった事例について民事裁判になった事例が紹介されています*1。
経営者としては労働契約で雇うよりも、経営パートナーとして業務委託とする方が都合がよい場合が多く、このような事例はほかにも多くあるのではないかとされています。
■アマゾンの配達員について
アマゾンの配達員については以前は配達する数に応じて受け取る報酬額が決まっていたものが、現在では1日当たりの金額という形に変更されたとしています。
この配送員についても現在は業務委託とされていますが、労働者として労災保険などの保護がなく問題視されていますす。
■労働基準監督署か裁判所か?
さて業務委託で働いている人が実は労働者ではないか? という疑問が起きたとき、どこに相談すればよいのでしょうか。
記事では労基署に駆け込んだ人が労基署では決められないとして門前払いされたという話が紹介されています*1。
国会では、厚生労働省の担当者が今後は積極的に労働者性について保護を試みると回答したとされていますが、労働者性については総合判断とされており、最終的には裁判所の判断にならざるを得ないという問題があります。
労働者全体の労働環境の保護という問題であれば、ユニオンなどを通じた団体交渉となるでしょうが、個人の労働者として時間外労働や解雇制限を争うとすれば、労働基準法9条の労働者性の問題として裁判所での救済を求めることになります。
■労働者性はある程度判断できる
労基法上の労働者性については総合判断とされるなど判断が難しい事例があるのも確かですが、多くの場合は経営者が自社に都合の良いように業務委託の形をとっていることが多く、そのような場合は比較的容易に労働者性が判断できる場合も多いといえます。
このあたりは多くの裁判例があることから、弁護士に相談いただければ客観的に裁判所の判断を予測することができます。
■お気軽にご相談ください
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
電話(052)218-6790
■参考文献
*1 「世界」2024年11月号
■また近時の裁判例で労働者性が問題になった事例は以下の記事で紹介しています。
http://patent-law.jp/news/detail/?id=43&category_id=&year_and_month=