戦略を策定することと数字で目標設定することの意味について

■毎年のように同じ目標を立てていないか?

 経営のセミナーに出ると数字で目標を設定することの大切さが協調されます。

 私も「3年間で売り上げ倍増」といった目標を毎年のように立てています。

 しかし、5年前にも同じような目標を立てていたし、売り上げはあまり高くなっていません。

 もちろんこの目標を立てなかったら、もっと悪い結果になっていたのかもしれませんが、何かが違っているという印象です。

 世間を見回してもいろいろなところで数字の目標が立てられています。同友会でも今年の増強目標として6人を入会させるとか、2050年サッカーワールドカップ優勝とか、先日石破首相は最低賃金1500円を実現させるといっていました。

 こうした目標設定は意味があるのでしょうか。

 

あなたへの問い

□あなたの周りにどんな数字目標がありますか。

 

■何が問題?

 こうした数字での目標設定を戦略策定だと考えてしまいがちですが、目標は戦略ではないことが「戦略のの要諦」(※1)では協調されています。

 例えば、3年間で売り上げ倍増という目標は何の根拠もなく恣意的に決められた数字でそれを決めたからといって何か自動的に戦略が生み出されるものではない。実際に大企業でも数字目標を設定してパワーポイントの数字を調整して戦略を作ったつもりになっているという例がよくあるとのことです。

 確かに、売り上げ倍増ということで数字を各年、各月に計算し直して今月はこの数字を達成しなければいけないという数字が出たとしても、それは目標を管理しているだけで、何をどのようにして売り上げをを伸ばすのかについては何も述べていない。

 むしろ、無理な数字設定を実現しようとして企業風土が異なる他の組織を合併したりするなど数字が先走りしすぎたM&Aも見かけられたりします。

 2050年W杯優勝という設定も、私が覚えている限り初めて日本がW杯に出場した1998年にも20年後にはW杯優勝という設定をしていたので、現時点2024年には世界の頂点に上り詰めているはずです。以前に比べれば日本のサッカーのレベルが格段に上がっていること自体は確かだとはいえるでしょうが、あの目標はどうなったのだろう?と思わざるをえません。

 それがまた同じように2050年W優勝という何の根拠もない目標が出てきて、26年も経てばみんな忘れているだろうという、無責任な目標設定に思えます。

 一方で、石破首相の最低賃金1500円は期限を決めていないものの、日本の総理大臣が発言したものですからこれは重い意味をもっていますし、総理大臣として一定の意思表明をしたのだと思います。

 さまざまな数字の中から最低賃金に注目して今後の政治が動くということですから、漠然としているとはいえ、目標としては意味があるようにも思えます。

 例えば、中小企業の賃金を上げるために中小企業が地方で活躍できる環境を整えてくれるのであれば、中小企業の経営は良い方向に向かい、最低賃金を上げることにつながるかもしれません。石破首相は地方創生を政策としていることからこのような理解ができます。

 政治的な指向はおくとして、数字で目標を設定することが悪いのではなく、戦略がないのに数字で目標を設定してその気になっていたのが悪いのだと気づかされます。

 

あなたへの問い

□数字で目標を設定することの意味は何でしょうか。

 

■解決へのアプローチ

 多くの場合、戦略がないのに数字の目標だけが先行してしまっているということは、これまで戦略をきちんと立ててこなかったということだと思います。

 実際のところ、私も外部環境や自社の強みなどから分析はしてきたものの、戦略を作るというところは、数字で目標を設定することにすり代わってしまい、何をどうするのかについて時間をかけて考えてこなかったという反省があります。

 つまり数字設定よりも先にきちんと戦略を策定するというアプローチが必要だったのです。

 なぜこんな問題があちこちでおきているのか?、というと、著書(※1)でも述べられていますが、戦略策定は簡単でないということに尽きると思います。

 戦略の策定は、長く苦しいプロセスであり、フレームで分析したらそこから出てくるようなものではないということです。

 多くの経営書では成功例がいとも簡単に、またスティーブ・ジョブズビル・ゲイツのような天才のひらめきで起きたように書かれていますが、戦略策定は長くて困難な道のりで、多くの事実が複雑に絡み合っているものを解きほぐすような作業だとされています。

 要するに、戦略策定は時間と労力をしっかりとかけて検討しなければならないということだと思います。

 

あなたへの問い

□戦略を作るのに時間と労力をかけていますか。

 

■最重要ポイントに焦点をあてる

 今年のプロ野球セリーグは3位だった横浜DeNAベイスターズ日本シリーズに進出しました。

 巨人や阪神が強かったというイメージでしたので、横浜が勝ち上がったというのは意外でした。

 スポーツの世界でも何が勝敗を決するかについては指揮官の力量に負うところが大きいと思います。

 経営の問題でも様々な事実が絡み合う中で一番重要なポイントに焦点を当てて資源を集中させることによって事態を好転させることができるとされています。

 中小企業では、サービス業であれば集客でしょうし、製造業や建設・建築であれば採用であることが多い。簡単に言えば、仕事がないか、仕事はあるが人がいないか、のどちらかだと思います。

 うちはサービス業なので、やはり集客が最重要ポイントになります。

 先日は同友会の例会でも市場開拓がテーマとなっていました。ここでは新しい顧客(市場)に注目するか、新しい商品・サービスに注目するかという観点から市場開拓を検討していました。

 いずれにしても戦略を作るための第一歩としては、障害となっている課題を適切に設定することだとされています。

 その課題は要石のようになっていてそれを取り除けば、全体が一気に崩れてくるというものです。又は、がんじがらめに閉ざされているが、ある一転を突破すると他の部分も自然とほぐれてくるような鍵となっている部分になります。

 そうした最重要ポイントに集中することが必要になります。

 そしてそれともう一つ重要なこととして、自社が取り組めばそれを取り除けるというものでなければならないということを忘れてはいけません。この取り組みが可能という条件を外してしまうと、世界平和を実現するとか、自社のサービスで人類を救済するとか、重要だが実現不可能な課題を設定してしまうことになるからです。

 理念やビジョンである程度長期的な願望を設定すること自体は否定しませんが、戦略という具体的な場面で自社が取り組んで実現できないような課題を設定してしまうことは現に避けなければならないことです。

 その意味で売り上げ●%アップという目標設定もほとんど意味をなさないことがわかります。

 このような障害が何かを自社が実現できる範囲で課題を設定することがとても難しく、しかし重要になってくるのです。

 そして、さらに、サービス業であれば、インターネット、AI技術が市場に対して大きな影響を及ぼしていることは間違いなく、この環境変化をどうとらえるか、を検討することなくしてサービス業の集客という課題を考えることはできないと思います。

 

あなたへの問い

□集客や採用の問題で一番重要な障害は何ですか。

 

■非対称性が自社の強みなんだ

 2人の力が拮抗したボクサーがいる。どちらが勝つのだろうか。同じように見えてても、2人の間に身長や腕の長さ、体力、経験など違いが多数あり、これが非対称性となる。そしてこの非対称性から優位性がうまれる。

 自社の強みを考えてみた場合、自社として何年もの間、同じ分野で業務をこなしてきているため、当たり前になっているようなことが実は自社の強みになっていることも珍しくないと思います。

 そして自社の強みは自社ではなかなか気づきにくいというものでもあるようです。

 先日老舗の製造業の社長と話していたのですが、その会社はあまり他社に売り込めるような特別なことはやっていないといわれていました。ところが、よくお聞きすると、その会社にはその会社でなければ出来ないような提案をしていたり、信頼を得ていたりしています。

 強みがないのが問題なのではなく、強みを知らないことが問題なのだと知りました。

 中小企業は大企業とは異なり、焦点を絞って強みを生かしながら商売をしていく必要があり、他社との比較でなにが違うのか、を強く意識することが必要です。

 そして、弱みと思っていたものは実は自社の特徴であって、逆にそれを生かすという考え方はいくらでもあるということはあります。中小であれば事業の方針転換は容易ですが、大企業では方針転換をしようとすれば多くの組織が影響を受けることになり、簡単ではありません。

 小型のモーターボートであれば自由に海を動き回れますが、大型船であれば曲がるのにも時間がかかりますし、大きな港がなければ陸に上がることもできません。トヨタソニーが飲食店を始めれば、どうしたんだろうとニュースになるでしょうが、うちが飲食店を始めても誰も何も言いません。

 だから強み、弱みという区別の仕方ではなく、違い(非対称性)に注目する必要があると思います。

 

あなたへの問い

□あなたの会社が他社と違うところは何ですか。

 

■どこなら勝てるか?

 売り上げや採用で課題があるとしても、自社がもっているものを集中させてその課題を乗り越えられなければ意味がない。

 中小企業では、資金も人材も限度があり、できることは限られます。だからこそ一番大切な最重要ポイントに資源を集中させて、しかも実現可能なものでなければならないことを改めて確認しましょう。

 要石となっている最重要ポイントに焦点を当てることと自社のリソースで取り組めば乗り越えられるという課題を設定して、これを戦略の第一歩とするのです。

 そして、これはしっかりと時間と労力をかけて検討しなければならない問題だということです。

 

あなたへの問い

□あなたの設定した課題は最重要ポイントをカバーしていますか。

□あなたの設定した課題は実現可能ですか。

 

参考文献

※1 「戦略の要諦」(リチャード・P・ルメルト著、日本経済新聞出版)

 

水野健司特許法律事務所|技術・知的財産、外国企業との契約書を中心に解決 (patent-law.jp)

AI技術で私たちの仕事はどう変わるのか?

■消滅した職業

 「もうほとんど辞めてしまいましたよ」

 私の知合いは浜松で特許の書類について英語翻訳の仕事をしていますが、周りの翻訳者は多くが仕事がなくなってしまい、今では知り合いを含めて数えるほどしか翻訳の仕事をしていないそうです。

 最近のAI技術で仕事を追われる人たちが確実に表れ始めていることを感じます。

 さて私の仕事はどうなるのだろうか。AIの波はホワイトカラーで働いている人たちに脅威となり、不安を与えています。

 AIはどの職業に置き換わり、どの職業が生き残るのだろうか。

 この投稿記事では、1980年代の人工知能の知識とそれ以後の法律家としての知識を駆使して、私なりに考えてみたいと思います。

 

あなたへの問い

□最近のAI技術であなたの仕事はどのように変わりましたか。

□今後AIがあなたの仕事をどう変えると思いますか?

 

■なぜ脅威や不安を感じるのか?

 2020年の4月に起きたことを覚えていますか。当時の安倍首相が全国の小中学校を閉鎖し、緊急事態宣言の下、新型コロナウイルスが猛威を振るっていました。

 中国、イタリアなど感染者が続々と死亡していく様子に世界中の人々が恐怖と不安を感じました。

 そして今2024年10月の時点でコロナウイルスは人類がコントロールできる感染症になりました。

 なぜあんなに恐怖と不安を感じたのでしょうか。

 もちろんワクチンや治療薬がないことも原因ですが、なんといっても「わからないこと」が恐怖と不安を倍増していたのです。未知のウイルスがどのように感染し、どのように流行していくのか、わからない状態では対応のしようがなく、ただ家に閉じこもることしかできません。

 AI技術はもちろんどのような広がりを見せて、今後どの職業が消えるのかについてわからない部分はあるのですが、ウイルスと違うのはこれは人間が作ったもので、その仕組みもわかっているということです。

 だからまずAI技術の中心となっている仕組みを知ることが私の未来、あなたの未来にとって大切になるのです。

 

あなたへの問い

□AIがいろいろなことができるのはなぜか? 仕組みを知っていますか?

 

■AIがすごいように見えるのはなぜか?

 あるエンジニアは、完成した製品のキズや不良を写真(画像)から検出するプログラムを作っています。

 その人は画像をアメリカのAIツールを使っているのですが、「どうやっているかはわからないけれど、ちゃんと答えを出してくれる。」といいます。

 この感想はAI、特に深層学習(ディープラーニング)の特徴をよく捉えていると思います。

 要するに判断の仕組みは見えない(ブラックボックス)になってしまっているのです。

 簡単な例から説明します。

 例えば、猫という動物を知らない人でも、猫の写真とそうでない写真とを大量に見せてもらえば、猫を判断できるようになりそうだというのは感覚的にわかります。

 これと同じように深層学習でも大量の画像データをコンピュータに読み込ませて学習させることで猫が写っている画像とそうでない画像を区別できるようになるのです。

 ただ、人間であれば、猫の特徴を目や耳、ひげ、体の形などの特徴から猫を判断しますが、コンピュータは大量のデータから自動的に特徴を学習していくのでどこを特徴として捉えているのかがわかりません。

 コンピュータは画像もデータ(数値の集合)としてしかとらえることができないので、学習した成果も大量の数値の集合(パラメータのセット)でしかなく、人間がこれを見て、猫のどこを特徴として捉えているのかはわからないブラックボックスになってしまうのです。

 なぜ大量の変数の集合で猫が判断できるのか、ということですが、大量の元データとその答(猫がそうでないか)があればコンピュータの中で入力と出力から一番よい判断ができるようなネットワークを人間の力を借りないでも自動的に作り上げることができるからです。これを機械学習、自己学習などと呼ぶことがあります。

 そうするとその大量の数字の集合で猫を判断できるようになるのです。

 このように深層学習、機械学習ということもありますが、大量のデータを読み込ませるだけであとはコンピュータが一番良い判断基準を作っていくので、なぜそのような判断をしたのかというプロセスはわからないのが原則です。

 これは画像データの場合ですが、文章にすればチャットGPTなどの生成AI技術となります。

 なぜ生成AIは自然な日本語で答えを返すことができるのでしょうか。

 これも大量の文章を前半を入力と後半を結果として学習させることで、大量の文章データから、質問に一番よい答えを出すことができるようになります。

 また一つの文についても、例えば、「信号の色は、」ときたら次の単語は、青又は赤が自然であるということになり、「白」や「黒「という言葉は入りにくいということになります。

 そして「信号が赤」まできたら、次に自然なフレーズは「車は停まる」といったものになります。

 このようなこと繰り返して自然な文章を作っていくことになります。

 ちなみにコンピュータは文字を理解したり画像を理解したりすることはなく、すべてを数値に置き換えて計算できるようにします。

 さらにいうとこの数字(10進法)というのも人間が置き換えているにすぎず、コンピュータはオン(1)とオフ(0)の2つの区別しかできません。だから2進法で処理した大量のデータを10進法にしてわかるように表示したりするのも人間がその仕組みの部分を考えて表示できるようにしているということになります。

 電球がついたり消えたりすることで部屋に人がいるかいないかがわかったりしますが、これは1ビットの情報を示しています。

 そしてこのようなオンとオフのものすごい大量なつぶつぶがコンピュータの中に入っているわけです。

 何よりも大切で知っておかなければならないことは、コンピュータは「何も考えていない」ということです。

 見かけ上はコンピュータが人間のように考えて答えて見えるように見えてしまうかもしれませんが、コンピュータは大量の数字の集合から一番それらしい確率の高いものを並べているだけで、それは入力された大量のデータから「それらしい答え」を出力しているにすぎません。

 この深層学習は大量のデータを高速で処理するコンピュータがなければ実現できません。この深層学習というアイデアとコンピュータの大量かつ高速処理がうまく組み合わされて、チャットGPTなど生成AIや画像認識などが脚光をあびるようになったというわけです。

 

あなたへの問い

□あなたの身近にあるAIはどのようなデータをもとに学習していますか。

 

■あなたの仕事はAIでなくなってしまうだろうか?

 私の知り合いにとても腕のいいペンキ職人がいます。

 この仕事はたぶんAIで置き換わることはしばらくはなさそうです。

 ただ職人の動きをロボットに学習させて再現しようとする研究はあるのでそのような研究が進むと職人さんの仕事もなくなるかもしれません。

 今一番使われている深層学習で成果を出すには、同じ種類の大量のデータ、統一されたルール、明確な目標とするものが必要であるとされています(※1)。

 ますは、画像、文章(テキスト)、音声、数値(売り上げ、気温など)などが必要だということです。これがなければそもそも学習させる元となるものがないことになります。

 そして一定のルールと目標です。翻訳については日本語→英語のルールは一定しており目標も明確、これらについては大量のデータで学習することができるため、AIにとって代わる可能性が高いということになります。

 では弁護士業はどうでしょうか。

 ある程度の法律相談であれば大量のデータをもとにそれらしい答えはできるため、AIでもなんとかなりそうです。

 ただ弁護士業は、過去に事例がないものや判断が分かれそうな事案も多く、そうなるとAIが過去のデータからそれらしい答えをしても、弁護士の個性は発揮されないことになります。

 また弁護士業は人と人とのつながりが大切で、同じ答えであっても機械がするのと人間が答えるのでは依頼者に対する安心感が違うのではないかと思います。

 つまり、過去のデータだけでは対応できないもの、人と人とのつながりが必要なものについてはAIでは対応できず、人間の仕事になるのではないかと思います。

 ただし大量のデータを元に一番よさそうな答が必要だという場面は多くありますからそういった仕事の部分はAIで置き換わっていくのは間違いなさそうです。

 

あなたへの問い

□AIの進歩で私たちの仕事はどう変わると思いますか?

 

■最後に覚えておきたい大切なこと

 AIは何も考えていません。

 そのことがとんでもないバイアスを生み出す危険性を秘めています。

 極端な例えいうと有色人種の顔データが不足している学習プログラムで、人間をゴリラだと判定してしまうようなことが起こる危険性があります。

 より深刻なのが築かれにくいバイアスです。

 例えば元のデータが白人男性が圧倒的に多かったりすると、女性やアジア系の人に対して入社資格など基準が厳しくなったりすることがあるといわれています。

 大量のデータで学習させてもそのデータで日本人や女性が圧倒的に少なければ、日本人や女性がその基準をクリアするのは難しくなるのは想像できることでしょう。資料として(※2)。

 また深層学習では大量の個人情報やプライバシー情報を扱うことがあり、セキュリティが問題になりやすいということです。

 日本でも個人情報が流出してしまったり、個人情報を抜き取られてランサム攻撃の被害が企業や自治体でも起きています。実例として(※3)。

 今後はすべてのレベルで高いセキュリティ意識が求められることになります。

 

 あなたへの問い

□AI技術を仕事に使う場合にどのようなリスクを想定しますか。

 

参考文献

※1 「AI 2041 人工知能が変える20年後の未来 (カイフ―・リー著)

※2 「AIファーストカンパニー」

※3 個人情報に対する不正アクセスについてシステム業者のセキュリティが問題になった裁判例として次のものがあります。

http://patent-law.jp/news/detail/?id=41

 

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弁護士 水野健司

 

「外資に染まるニッポン観光産業」(選択2024年10月号より)

 映画「フラガール」で有名になった福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」が米国投資ファンドフォートレス・インベストメント・グループに買収される。この米ファンドは宮崎県のシーガイアのほか、日本各地のホテルなどを多数保有しており今や国内最大のレジャー企業となっているそうです。

 もちろんこの記事が指摘するようにファンドが長期的にこれらの観光資産を保有し続けることは考えにくく資金力で企業価値を上げることができれば売却など「エグジット」が予定されているはずです。

 そしてそのときに日本の資本が入る可能性は小さく、やはり外国の資金で運用されることになりそうだということです。

 資金がなくこのまま閉鎖するよりはいいともいえますが、日本本来の観光資産の多くが外資により運営され、その収益も外資が得るというのはやはり複雑です。こういったソフト面での再生についても日本本来の手法で何とかならないものか、これも地方創生の大きな課題といえそうです。

 

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「ひとりで暮らす私たち──中高年シングル女性の生活」(世界2024年10月号より)

 年齢40歳以上で配偶者のいない単身生活女性を「中高年シングル女性」
というくくりでその困窮した生活が問題になっているという。多くの職場で女性の賃金は低く抑えられていること、中高年となると飲食店などで働くことが難しくなってきていることからかなり困難な生活を強いられる状況のようです。

 そして社会の目も厳しく、小泉政権時代から言われる自己責任論で、そのような身分になったのは自己の責任だという考え方が日本社会に浸透してきているといいます。

 東京都知事選で2位になった石丸氏は、労働者や生活者の視点が全くなく、高齢者、障害者などに対する共感はないといいます。そして自己責任が内在化している若者にとっては、明確な社会的弱者は保護される一方で自分たちは放っておかれることから、社会的な政策にはむしろ反発し、それなら自分たちのことは自分たちでするから、という考えになっていくといいます。

 確かに、高齢者は社会的弱者というよりも今や人口で多数派になろうとしていますし、障害者は手帳があれば優遇措置を受けることができます。一方若者は必ずしも満足な生活を送れている人ばかりでなく、高齢者優遇の社会で肩身の狭い思いをしているということもあります。実際に引きこもりの若者も多数います。

 そうなると日本人口の大多数が社会的弱者ではないかという疑問すら起きてくます。

 いずれにしてもステレオタイプ的に社会を見ることが危険であると改めて感じました。

 

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自分に選択肢があると思うことが大切(選択の科学、第1講、シーナ・アイエンガー著)

 大規模な公務員に対する調査で最上位層にある公務員よりも最下層にある公務員の方が健康リスクが3倍も高い。これは下位層の公務員の方が喫煙や肥満が多いということもあるがそれを考慮してもなお2倍にもなるとされています。

 一般に責任が大きいほど心理的ストレスが大きく、下位層で単純作業を行う者はストレスが少ないようにも考えられますが、実際はその正反対ということです。

 確かに上位層の役員は責任は大きいし報酬も多いのですが部下や経営について広い裁量権をもっており自分でそれをコントロールしているという感覚があるためストレスは小さく健康リスクも低い。一方下位層の職員は裁量権がほとんどなく常に拘束されているという意識があるため腰や背中に痛みを感じやすく、血圧も高くなり健康リスクが高いとされています。

 現在社会で起きるストレス原因として、交通渋滞、顧客からのクレーム、長時間労働などは自らの自由に割り込んでくるものです。

 しかし著者が指摘する重要なことは、動物とは異なり人間は認識によって自分に裁量権があり自分で選択しているのだと思うことができるということです。

 つまり上位層の役員であっても自分で選択をしているという認識がなければやはり健康リスクは高くストレスを感じやすいし、たとえ下位層で職業上の裁量権は小さくても自分に選択権があるのだと認識している職員であればストレスを感じることは少なく健康リスクも低いということになります。

 会社の経営者であれば社員さんに裁量権を与えることも大切ですが、社員さんが自分で決定して仕事を進めているのだという感覚をもってもらうことの方がむしろ大切になるということを覚えておくとよいと思います。

 

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「イーロン・マスク「親露」の虚実」(選択2024年10月号)

 イーロン・マスク氏が米大統領選でドナルド・トランプ氏を支持していることは知られていますが、それにはロシアの影が見て取れるとするものです。

 マスク氏がツイッターを買収する投資家には欧州が制裁を科している組織のロシア人が入っていること、トランプ氏の議会襲撃事件で凍結していた旧ツイッターのアカウントを復活させたこと、マスク氏自身がクレムリンの諜報担当やプーチン氏本人とコンタクトをとっているとされていること、そしてウクライナ戦争に対するXの情報操作もあげられています。

 例えば、キーウの小児病院がミサイル攻撃を受けたときウクライナの地対空ミサイルが落ちたというロシア側の意見を支持し、ウクライナでダムが破壊されたときはこれを自作自演だとする動画を拡散したほかウクライナの地元の人々がXを使って情報交換しようとしたのを妨害したとされています。また衛星を使ったスターリングの使用をウクライナの軍が使用するのを遮断した一方でロシア軍がこれを使っていることが確認されているとされています。

 米司法省もロシアの介入については警戒しているということですが2016年と同じ轍を踏むのではないかという見方があります。

 Xという公共性の高いメディアがマスク氏という民主的な基盤をもたない個人が握っていることの危うさが見て取れます。ただここまで明確に親ロシア、親トランプ氏がはっきりとしているのであればそれの立場を前提にXというメディアに接していくことでリスクはある程度回避できるのかもしれません。

 この現代社会では厳密な意味での政治的中立性はありえず常に何らかのバイアスがかかっていることを認識して各メディアに接することが必要なのでしょう。

 ソビエト崩壊でアメリカに対抗できなくなったとされるロシアが最も得意とする諜報活動で米国のメディア、技術、財産で巨大な力をもつマスク氏と政治の頂点である大統領になろうとするトランプ氏の2人を自らの陣営に取り込もうとしていること、それを成功させようとしていることに驚かされます。

 

水野健司特許法律事務所

弁護士 水野健司

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「透明なアフガニスタン女性たち」(Newsweek日本語版2024年10月15日号)

 アフガニスタンタリバンが政権について3年が経過し、女性たちは基本的な権利として学校、大学へ行くこと、公園、美容室などに行くことなど大きな制限を受けており、今年の8月には女性が公共の場所で大きな声を上げたり歌を歌ったりすることが禁止されたとしています。

 アフガニスタンでは女性が未来を見いだせないとして国外に脱出したり若い女性では自殺したりする例もあるとされています。

 ここでは活動家であるフォトジャーナリストが取材で撮影した写真がフランスで著明な賞を獲得して紹介されています。

 現代社会でこのようなあからさまな女性差別が国家権力としてなされていることに驚きますが、日本社会でも、性的マイノリティ、障害者、高齢者、女性といった社会的に弱い立場にあるとされている人たちは少なからず不利な扱いを受けており、多様性を受け容れる積極的な姿勢が求められることはどこでも必須といえるのでしょう。

 

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