「我が人生 ミハイル・ゴルバチョフ自伝」(ミハイル・ゴルバチョフ著)

 1980年代ソ連共産党書記長として行われた民主化への改革ペレストロイカを成し遂げた筆者自身に書かれた自伝であり、現在のウクライナ侵攻に対して真っ先に対話による解決を促したことでも存在感を示しました。

 1980年頃のソ連ペレストロイカのような改革を実行するために、そもそも民主化された体制やグラスノスチ(情報公開)により国民の知る権利、集会の自由、言論の自由などが与えられた国家というものがどういうものになるのか理解できない市民では改革を主導できないと考え、共産党指導部から慎重に、かつ確実に改革を進めていった過程が説明されています。

 当然ながら共産党指導部でも抵抗する勢力があり、改革は容易でなかったとされています。

 当時のソ連では経済が停滞し、多くの問題が解決されないままになっており、その中で市民に開かれた政治で突破口を見出そうとしたのであり、偉大な改革者としての強い意志と明確な判断基準が見られます。それは流血を伴わないこと、国民に率直に現状を知らせること、一定期間でリーダーは後退すること、相手を尊重し対話で解決を探ることなどでした。

 当時の米国大統領であったレーガン氏とのレイキャビク合意など大幅な核戦力削減など功績は極めて大きいといえますが、現在のロシアとウクライナの状況や世界の不安定な状態を考えると、ゴルバチョフ氏が目指した理想はまだ道半ばというところですが、ゴルバチョフ氏が大切にした基本的な価値は現在でも有効であり、特に国家のリーダーの地位にある人物は自らの地位に固執することや金銭を目的にした行動は現に慎まなければならないということが改めてよく確認されました。

 

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「統計学 コイン投げの公平性」(日経サイエンス2024年5月号)

 コインを空中に投げて表か裏かで何かをきめるというコイン投げですが、50パーセントで表又は裏が出るものと考えがちなところ、これに疑問を呈し、35万回以上もの実験から、最初の面が出る確率がわずかに高いことがわかったのです。

 実験によると、最初に表だったコインを空中に投げた場合50.8%の確立で同じ表面がでるとのことです。

 理論的には空中で最初の面が上になっている時間がわずかに長いからだということで、51%の確率で最初の面と同じ面が出ると考えられるということでした。

 仮にこれらのデータを知らない人たちの中でコイン投げを行うとしたら、この法則を知っているあなたは1%だけ優位に立てることになるということです。

 もっとも、最初に表か裏かを隠してしまったり、空中に投げる方法を使わないで手の中で振るような方法の場合は、この知識は役に立たないとのことでした。 

 今回は35万回という実験を実現するために数十人の被験者が週末をコイン投げで過ごしたとのことでしたが、統計学の検証というのも地道で粘り強いアプローチが必要なのだということがわかりました。

 

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「本格的人口減少下の日本 創造的復興に必要な視点」(Wedge2024年4月号)

 令和6年元日の能登半島地震は本格的な人口減少下での復興が問題になった初めてのケースだといえそうです。

 創造的復興は阪神淡路大震災のころに言われた言葉とのことですが、不幸には、街、人、仕事の3つの視点が欠かないとのことで、人口がある程度集まっている状況であれば、街(空間)を作れば人が集まり、不動産は交換価値をもつようになるとのことです。人の活力に街の復興が遅れると、人と仕事があふれかえり、スラム化するといいます。

 日本では東日本大震災の後でもスラム化するような場所は現れず、むしろ400キロにも及ぶ防潮堤はそこに住む人口に対して過剰なインフラではないかという疑問が投げかけられたとのことでした。

 人口減少下にある能登半島でいくら住居を整備しても仕事がなければ、人が集まることはなく、まずは仕事があることが優先されなければならないということです。

 人口減少下の創造的復興は身の丈に合った復興が必要であり、仕事、人、街をバランスよく復興させていく必要があるとのことです。

 記事によれば、将来的に人口増加が見込まれるのは東京都だけであり、他の道府県はすべて減少に転ずるとのことでした。

 街を作れば人が集まるというフィールド・オブ・ドリームスのような状況ではないことを十分に考慮して復興計画を考える必要がありそうです。

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「偉大なるリニア計画って必要なの?」(Newsweek日本語版2024年4月16日号)

 イギリスの鉄道は少しの風で止まってしまう、日常的に時間に遅れるといった身近な問題が多数あるにもかかわらず、これを是正しようとしないばかりか、大規模な高速鉄道のプロジェクトが動いているとのことです。

 鉄道の大規模プロジェクトは政治家にとっては偉大な事業を成し遂げたというレガシーになるとのことで、古くは田中角栄が新潟に新幹線を導入したということがありました。

 東海道新幹線Wi-Fiも備わっており、新幹線の中で有益な時間を過ごすことも可能になっており、わずかばかりの時間を節約するために膨大な費用を費やすことにどれほどの意味があるのだろうか。

 そもそも日本は人口減少、超高齢化にあり、リニアを使う人がどれだけいるのだろうか、といった疑問が投げかけられており、説得力があるように思います。

 巨大プロジェクトに費用を費やすのであれば、今の新幹線で過ごす時間を有効にする設備やメンテナンスに注力する方向に転換してもよい時期になっているのではないかと思います。

 

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「技術革新と法規制のもどかしい関係」(日経パソコン2024年5月号)

 電動キックボードは他国でも事故の危険性から規制をかける傾向にあり、またUberなどのライドシェアは、国固有の制度上の問題から規制がかかるのはやむを得ないという内容でした。

 また自転車利用者のイヤホンの規制は、外部の音を取り入れる製品も開発されているため、警察では声をかけてみて聞こえているか否かを確認してから取り締まるという運用にされているようです。

 ここで確認しなければならないのは、技術革新にしてもビジネス上のイノベーションにしても従前にないものを取り入れようとすれば、リスクは必ずつきものであるということです。

 ある程度高い確率で予想できるリスクについては準備が必要でしょうが、リスクを恐れて試すこと自体をしなければ、どのような問題が発生するかすら、わからないということです。

 他国で採用された実例を見てから、リスクを低減した形で取り入れようとすれば、イノベーションで世界の先頭に立つことはできないでしょう。

 その意味で日本では、既得権益を維持しようとする力が大きく、また漠然としたリスクで責任を取りたがらない姿勢を改めなければ、イノベーションアメリカや中国と競っていくことは難しくなるように思います。

 

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奇跡の「やせ薬」に自殺リスク?(Newsweek日本語版2024年4月16日号)

 オゼンピックは糖尿病治療で使われる皮下注射薬ですが、これが肥満を防止する効果があるということでSNSやセレブなどの間で奇跡のやせ薬として大人気になったとのことです。

 これは満腹感を感じやすくなるという薬理効果によるものとのことですが、精神疾患との関連性が報告されているということです。

 もっとも薬の成分と精神障害との因果関係は必ずしも明らかではなく、精神疾患に対する影響は確認できないという報告もあるそうで、厳密な影響力についてはさらなる検査が必要といえそうです。

 もっとも一般に入手できる薬にはそもそもオゼンピックの成分が含まれていないものがあったりする等安全性の面で問題があるとのことでした。

 現時点では医師の指導の下で調剤薬局で処方される範囲で利用することが必要であろうということでした。

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違法な退職勧奨行為と精神的体調悪化の因果関係が認められた事例

 パワハラなど違法な言動が職場で行われた場合、うつ病適応障害等の精神疾患が発症したり悪化したりすることがありますが裁判所では行為と疾患の因果関係が証明できないことも多いといえます。

 東京地裁令和2年12月21日判決ウエストロー2020WLJPCA12218005は次のように述べて違法な退職勧奨と体調悪化の因果関係を認めました。

 「原告は,平成27年7月から平成30年6月までは,抑うつ状態,不安神経症不眠症等により,おおむね月1回の頻度で本件心療内科に通院し,抗うつ薬等の処方を受けていたところ,本件退職勧奨行為が始まった同月頃以後,担当する医師に対し,落ち込みの度合いが高まっている旨を訴えるようになり」「同年3月頃以後増加傾向にあった抗うつ薬等の処方量は,同年6月以後一層増加し」、「原告は,同年7月4日から被告会社への出勤を停止」「同月18日,同医師から,うつ病との診断を受け,同月以後,おおむね2週間に1回の頻度で本件心療内科に通院するようになる」「同年6月以後,原告の体調が悪化したことが認められるところ」、「原告の体調悪化の具体的な経緯に鑑みると,本件退職勧奨行為と原告の当該体調悪化との間には因果関係が認められる。」

 すなわち原告の投薬量増加、うつ病の診断、通院回数の増加といった症状の悪化が会社から受けた退職勧奨と時期的に対応していることから精神疾患の発症又は増悪が違法なハラスメント行為によるものであると判断されました。

 このように精神疾患との因果関係を証明するには診断書だけでなく診療経過も検討して時期的な対応関係を検討する必要があるでしょう。

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