個人事業主で働いていくことのリスクと保護をどう考えるか?
■フリーランス保護法が施工されました
令和6年11月よりいわゆるフリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行となりました。
これまでは中小企業であれば独占禁止法や下請法などで保護されていましたが、フリーランスについては保護する法律がありませんでした。
この法律により契約書の作成義務、報酬の支払いなどがある程度確保されることが期待されています。
ただし、この法律は下請法を前提としており、いわゆる労働法としての保護はなく、最低賃金、労働災害保険、解雇禁止といった労働者を前提とする保護はなされていません。
背景としては、正社員として働く人と、非正規で働く人との格差を是正する動向の流れの中で、法的に弱い立場にある個人事業主を保護するという動向が欧米で先行しており、日本がこれを追従したものとされています。
■プラットフォームワーカーの問題
欧米では、ウーバーが大きな成長を遂げたため、このようなプラットフォームに登録して働く人たちの労働形態が問題視されるようになったとされています。
個人事業として好きな時間帯に好きな分だけ働くことができるという手軽さがある一方で、このようなプラットフォームで働く人が労働者ではないとなると、最低賃金、解雇制限など労働者を前提とする保護が全くなされないことになり、企業側が一方的に労働者を搾取するということが可能になってしまうからです。
日本ではウーバーが規制を受けたことから、例えばアマゾンの配達員などで同じような問題が起きているとされています。
これには働く側が労働組合のような団体を作り、全体で企業側と労働条件について交渉することや一定の認証制度のようなものを作り、企業も認証を取って表示することにより登録する人々に保護が約束されていることを表示するなどの制度があるようです。
すでにフランスでは、こうしたプラットフォームワーカーの働く条件を保護する体制がとられているということです*1。
■労働者の個人情報が流出する問題
またこれは個人事業主だけの問題ではありませんが、HRテック(労務管理技術)により労働者の個人情報が企業側に把握されてしまうという問題も指摘されています。
グラスやウォッチのようなウェアブルデバイスを使うことにより、労働の視線や話し方などから業務に集中できているか、顧客に適切に対応しているか、健康状態は良好かなどといった多くの労働者の情報が企業側に把握され、HRテックと呼ばれるAIによって労務が管理されるという事態が起きようとしています。
労働者が怠けていたり、顧客に失礼な言動をとっていたとすれば、AIが随時指示を出し、注意するということになります。
日本でも腕に巻くウェアブルデバイスを用いて従業員の健康管理を行うという使い方が始まっているとされています。
またエントリーシートの選別作業についてもAIにより選別するという運用がが始められようとしているということです。
欧米ではこうした動きに対して労働者の個人情報を保護しなければならないという問題意識が強いのですが、日本では個人情報保護法があるのみで、漠然と同意を得て個人情報を抜きとられてしまうという危険が高いいように思われます。
■ラーメン店の経営パートナー
福岡県の事例では、ラーメン店で深夜帯で働く夫婦が「経営パートナー」という個人事業で働いていたことから、最低賃金、時間外労働、深夜労働など割増賃金が支払われていなかった事例について民事裁判になった事例が紹介されています*1。
経営者としては労働契約で雇うよりも、経営パートナーとして業務委託とする方が都合がよい場合が多く、このような事例はほかにも多くあるのではないかとされています。
■アマゾンの配達員について
アマゾンの配達員については以前は配達する数に応じて受け取る報酬額が決まっていたものが、現在では1日当たりの金額という形に変更されたとしています。
この配送員についても現在は業務委託とされていますが、労働者として労災保険などの保護がなく問題視されていますす。
■労働基準監督署か裁判所か?
さて業務委託で働いている人が実は労働者ではないか? という疑問が起きたとき、どこに相談すればよいのでしょうか。
記事では労基署に駆け込んだ人が労基署では決められないとして門前払いされたという話が紹介されています*1。
国会では、厚生労働省の担当者が今後は積極的に労働者性について保護を試みると回答したとされていますが、労働者性については総合判断とされており、最終的には裁判所の判断にならざるを得ないという問題があります。
労働者全体の労働環境の保護という問題であれば、ユニオンなどを通じた団体交渉となるでしょうが、個人の労働者として時間外労働や解雇制限を争うとすれば、労働基準法9条の労働者性の問題として裁判所での救済を求めることになります。
■労働者性はある程度判断できる
労基法上の労働者性については総合判断とされるなど判断が難しい事例があるのも確かですが、多くの場合は経営者が自社に都合の良いように業務委託の形をとっていることが多く、そのような場合は比較的容易に労働者性が判断できる場合も多いといえます。
このあたりは多くの裁判例があることから、弁護士に相談いただければ客観的に裁判所の判断を予測することができます。
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水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
電話(052)218-6790
■参考文献
*1 「世界」2024年11月号
■また近時の裁判例で労働者性が問題になった事例は以下の記事で紹介しています。
http://patent-law.jp/news/detail/?id=43&category_id=&year_and_month=
「やめてほしい社員さん」がいるとき社長はどうすればよいか?
■「やめてほしい社員さん」の悩み
労働問題を扱う中で会社の経営側でよく問題になるのは「やめてほしい社員さん」の扱い方です。
こういった社員さんを無理に退職に追い込もうとして不自然な懲戒処分をしたり転勤命令をしたりして嫌がらせをすれば、自分から辞めていくだろうと考える経営者も多いようであり、労働者側から相談を受けることもあります。
このような不相当な処分や退職に向けた嫌がらせは全体として違法になる可能性があり、最終的な解雇も無効と判断されてしまう可能性が高くなります。
■それならどうする?
まず退職に向けた説得そのものが違法となるわけではないことを確認しておきましょう。
裁判所は「退職勧奨は,その事柄の性質上,多かれ少なかれ,従業員が退職の意思表示をすることに向けられた説得の要素を伴うものであって,一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではなく,その際,使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や,引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは,それが当該従業員にとって好ましくないものであったとしても,直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない」として従業員にとって嫌な思いをしたからといって違法になるものではないことを確認しています*1。
問題は嘘の事実を言って退職するしか他に選択肢がないかのようにして説得したり、退職しないことを明らかにしているのに執拗に説得を続けたり嫌がらせをしたすることが違法となる可能性があるのです。
あくまでも社員さんの能力、意欲、特性などから現在の業務で成果を出せる見込みがないことなど客観的に説明することで退職に納得してもらうといった方法をとるべきでしょう。
■異動により能力を発揮できないか?
また能力を発揮できない社員さんについては、本人と話し合いながら本人の同意を得て部署を異動することによって、能力を発揮できる機会を与えてみることも重要です。
これは仮に社員さんを解雇する前提としても解雇という最後の手段を選択する前に異動により労働契約を継続する手段を検討する必要があります。
この点最高裁判所でも、「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである(最高裁昭和61年7月14日判決・裁判集民事148号281頁)。」として社員さんの能力開発による異動や転勤による業務上の必要性をみとめています。転勤命令の違法性が争われ、無効とならないと判断された裁判例もあります*2。
これもその社員さんに対する退職に向けた嫌がらせとならないように慎重に行う必要があります。好ましくない社員さんを事実上退職に追い込むために地方都市に転勤させるような意図であってはならないということです。
■誠実に話し合いを行うのが基本的な方法
退職させたい意図は敏感に社員さんにも伝わってしまうものですし、退職勧奨をしているのだから、会社にいてほしくないことを会社としても認めていることになります。
そのような場合でも退職した後のパッケージを準備し、転職に積極的に協力するなどのサポートをすることにより社内でも不安が広がるのを回避することもできます。
退職してほしい社員さんだからこそ最後までしっかりとサポートすることで自社の価値を高めることができるのではないかと思います。
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裁判例
*1 横浜地裁令和2年3月24日判決2020WLJPCA03246001
(個人面談における言動が違法な退職勧奨にあたると判断された裁判例)
*2 東京地裁令和6年1月30日判決2024WLJPCA01306002
この裁判例については以下で紹介しています。
http://patent-law.jp/news/detail/?id=42&category_id=&year_and_month=
中小企業のセキュリティ対策はまず2つの情報に注目する
■企業にとっての情報の価値
企業、特に中小企業にとって、会社で扱う情報のセキュリティは悩みの種となっています。
これは、日本でも大企業で顧客の個人情報の流出が毎日のように報道され、今後は大企業から中小企業にもこのような情報流出の問題が現実的になってきているからです。
そして多くの場合、企業の秘密情報として問題になるのは、顧客の個人情報と製品情報の2つであることから、まずはこの2つに焦点を絞ってセキュリティ対策を考えるとよいでしょう。
■なぜ個人情報が狙われるのか?
最近よく報道されていますが、闇バイトはなぜ横行しているのでしょうか。インターネットのSNSだけのやり取りであれば、犯罪を命令された時点で拒否すればよいはずです。報道では「個人情報を握られていたから逃げられなかった。」として犯罪を実行したとされています。
個人情報を明かしただけで自己に不利益なことがどれほど起きるのかわかりませんが、少なくとも強盗の実行を拒否できないほどの強制力が働いていると考えられます。
また大企業では、個客の個人情報が不正なアクセスを受けて大量に流出してしまい、ランサムウェア攻撃として巨額の身代金を支払うという事態も起きています。
このように個人情報は犯罪にも深く関係する最も取り扱いに注意しなければいけない危険物なのです。
ところが、この顧客に関する氏名、住所、生年月日、電話番号といった個人情報はその個人が過去にどのような商品を購入したか、どのようなサイトを訪問し、どのような検索を行ったか、などといった履歴情報として深層学習で処理されたアルゴリズムで最適なリコメンドを行うために必要な情報です。ネットワークにより一元的に集中して管理したいという企業側の思惑もあるため、セキュリティ対策を難しくしています。
今後は、中小企業でもAIとネットワークを利用したシステム管理体制が導入されると予想されるため、個人情報の管理体制が課題となっていくことに間違いないでしょう。
中小企業の経営者としては、個人情報が大量になっていく段階で必ずセキュリティに関する対応策を施しておかなければならないことを心にとどめておくべきでしょう。
■製品情報についてのセキュリティの考え方
これに対して製品情報については、全く異なる考え方ができます。
技術やノウハウを財産として企業に蓄えておきたい場合、特許や意匠といった登録手続を行うことで社員である技術者が漠然と持っていた情報が企業に見える形で管理できる情報に変わります。
ただ特許、意匠、商標といった登録できる知的財産以外については情報の形でしかなく、これをどこまで会社の財産というのかは難しいところとなってきます。
そのような状況で、一つの手段として営業秘密として企業で管理体制を築くことによって、この管理体制下に置かれた情報についてはその企業の財産であり、従業員としても持ち出せば不正競争行為になると周知させることができます。
目に見えない情報という企業の財産を目に見える形で管理するということが可能になります。
実際に、意匠権で保護されていない3Dデータが営業秘密として保護され、取引先がこのデータを使って実質的に同一の商品を製造し販売した場合に、不正競争防止法違反として販売数量に応じた損害賠償が認めらた裁判例もあります*1。
これは意匠権や著作権、不正競争防止法の形態模倣などではカバーしきれないデザインについて一定の保護が与えられたと評価することもできます。
また製品に関する重要なデータであり、特許権の保護対象から外れてしまうようなものは多数あり、これらの貴重なデータを保護するためにも営業秘密として管理していることが不可欠となります。
そして、営業秘密として管理していれば、仮に従業員や取引先から情報が流出して競合会社が利用したとしても不正競争防止法違反として、製造や販売の中止を求めることができるようになります。
このように会社における製品情報は、営業秘密として管理することによって目に見えない漠然とした状態から、適切に管理された財産的な価値のあるものとして保護されることになるのです。
■必ず考えたい2つの視点
では営業秘密として情報を管理するために何に注意すればよいのでしょうか。
まずは従業員や担当者との関係で、就業規則、誓約書、秘密保持契約、秘密であることの周知、教育などを行い、秘密情報の管理について注意を促すことが必要です。
そして実際に秘密情報が含まれる記憶領域(フォルダーなど)についてはパスワード、認証などアクセス制限を行い、その情報が秘密であることが適切に表示され、認識できるようになっていることが重要です。
■まずは顧客の個人情報から
このように、顧客の個人情報と製品情報は全く違う観点から営業秘密として管理することが中小企業にとって、とても大切なことになってきます。
現代では、個人情報はリスクでもあり、貴重な財産でもあります。まずは、個人情報をどのように管理するのがよいか、クラウドベースに個人情報を移すときにセキュリティはどの程度考慮されているかを核にするようにしましょう。
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参考
*1 東京地裁令和4年1月28日判決 2022WLJPCA01289004
(新製品の3次元データが交渉中に競合相手に流出した事例)
なお、近時の裁判例で営業秘密が問題になった事例は以下の記事で紹介しています。
http://patent-law.jp/app/webroot/news/detail/?id=11&category_id=&year_and_month=
戦略を策定することと数字で目標設定することの意味について
■毎年のように同じ目標を立てていないか?
経営のセミナーに出ると数字で目標を設定することの大切さが協調されます。
私も「3年間で売り上げ倍増」といった目標を毎年のように立てています。
しかし、5年前にも同じような目標を立てていたし、売り上げはあまり高くなっていません。
もちろんこの目標を立てなかったら、もっと悪い結果になっていたのかもしれませんが、何かが違っているという印象です。
世間を見回してもいろいろなところで数字の目標が立てられています。同友会でも今年の増強目標として6人を入会させるとか、2050年サッカーワールドカップ優勝とか、先日石破首相は最低賃金1500円を実現させるといっていました。
こうした目標設定は意味があるのでしょうか。
あなたへの問い
□あなたの周りにどんな数字目標がありますか。
■何が問題?
こうした数字での目標設定を戦略策定だと考えてしまいがちですが、目標は戦略ではないことが「戦略のの要諦」(※1)では協調されています。
例えば、3年間で売り上げ倍増という目標は何の根拠もなく恣意的に決められた数字でそれを決めたからといって何か自動的に戦略が生み出されるものではない。実際に大企業でも数字目標を設定してパワーポイントの数字を調整して戦略を作ったつもりになっているという例がよくあるとのことです。
確かに、売り上げ倍増ということで数字を各年、各月に計算し直して今月はこの数字を達成しなければいけないという数字が出たとしても、それは目標を管理しているだけで、何をどのようにして売り上げをを伸ばすのかについては何も述べていない。
むしろ、無理な数字設定を実現しようとして企業風土が異なる他の組織を合併したりするなど数字が先走りしすぎたM&Aも見かけられたりします。
2050年W杯優勝という設定も、私が覚えている限り初めて日本がW杯に出場した1998年にも20年後にはW杯優勝という設定をしていたので、現時点2024年には世界の頂点に上り詰めているはずです。以前に比べれば日本のサッカーのレベルが格段に上がっていること自体は確かだとはいえるでしょうが、あの目標はどうなったのだろう?と思わざるをえません。
それがまた同じように2050年W優勝という何の根拠もない目標が出てきて、26年も経てばみんな忘れているだろうという、無責任な目標設定に思えます。
一方で、石破首相の最低賃金1500円は期限を決めていないものの、日本の総理大臣が発言したものですからこれは重い意味をもっていますし、総理大臣として一定の意思表明をしたのだと思います。
さまざまな数字の中から最低賃金に注目して今後の政治が動くということですから、漠然としているとはいえ、目標としては意味があるようにも思えます。
例えば、中小企業の賃金を上げるために中小企業が地方で活躍できる環境を整えてくれるのであれば、中小企業の経営は良い方向に向かい、最低賃金を上げることにつながるかもしれません。石破首相は地方創生を政策としていることからこのような理解ができます。
政治的な指向はおくとして、数字で目標を設定することが悪いのではなく、戦略がないのに数字で目標を設定してその気になっていたのが悪いのだと気づかされます。
あなたへの問い
□数字で目標を設定することの意味は何でしょうか。
■解決へのアプローチ
多くの場合、戦略がないのに数字の目標だけが先行してしまっているということは、これまで戦略をきちんと立ててこなかったということだと思います。
実際のところ、私も外部環境や自社の強みなどから分析はしてきたものの、戦略を作るというところは、数字で目標を設定することにすり代わってしまい、何をどうするのかについて時間をかけて考えてこなかったという反省があります。
つまり数字設定よりも先にきちんと戦略を策定するというアプローチが必要だったのです。
なぜこんな問題があちこちでおきているのか?、というと、著書(※1)でも述べられていますが、戦略策定は簡単でないということに尽きると思います。
戦略の策定は、長く苦しいプロセスであり、フレームで分析したらそこから出てくるようなものではないということです。
多くの経営書では成功例がいとも簡単に、またスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのような天才のひらめきで起きたように書かれていますが、戦略策定は長くて困難な道のりで、多くの事実が複雑に絡み合っているものを解きほぐすような作業だとされています。
要するに、戦略策定は時間と労力をしっかりとかけて検討しなければならないということだと思います。
あなたへの問い
□戦略を作るのに時間と労力をかけていますか。
■最重要ポイントに焦点をあてる
今年のプロ野球セリーグは3位だった横浜DeNAベイスターズが日本シリーズに進出しました。
巨人や阪神が強かったというイメージでしたので、横浜が勝ち上がったというのは意外でした。
スポーツの世界でも何が勝敗を決するかについては指揮官の力量に負うところが大きいと思います。
経営の問題でも様々な事実が絡み合う中で一番重要なポイントに焦点を当てて資源を集中させることによって事態を好転させることができるとされています。
中小企業では、サービス業であれば集客でしょうし、製造業や建設・建築であれば採用であることが多い。簡単に言えば、仕事がないか、仕事はあるが人がいないか、のどちらかだと思います。
うちはサービス業なので、やはり集客が最重要ポイントになります。
先日は同友会の例会でも市場開拓がテーマとなっていました。ここでは新しい顧客(市場)に注目するか、新しい商品・サービスに注目するかという観点から市場開拓を検討していました。
いずれにしても戦略を作るための第一歩としては、障害となっている課題を適切に設定することだとされています。
その課題は要石のようになっていてそれを取り除けば、全体が一気に崩れてくるというものです。又は、がんじがらめに閉ざされているが、ある一転を突破すると他の部分も自然とほぐれてくるような鍵となっている部分になります。
そうした最重要ポイントに集中することが必要になります。
そしてそれともう一つ重要なこととして、自社が取り組めばそれを取り除けるというものでなければならないということを忘れてはいけません。この取り組みが可能という条件を外してしまうと、世界平和を実現するとか、自社のサービスで人類を救済するとか、重要だが実現不可能な課題を設定してしまうことになるからです。
理念やビジョンである程度長期的な願望を設定すること自体は否定しませんが、戦略という具体的な場面で自社が取り組んで実現できないような課題を設定してしまうことは現に避けなければならないことです。
その意味で売り上げ●%アップという目標設定もほとんど意味をなさないことがわかります。
このような障害が何かを自社が実現できる範囲で課題を設定することがとても難しく、しかし重要になってくるのです。
そして、さらに、サービス業であれば、インターネット、AI技術が市場に対して大きな影響を及ぼしていることは間違いなく、この環境変化をどうとらえるか、を検討することなくしてサービス業の集客という課題を考えることはできないと思います。
あなたへの問い
□集客や採用の問題で一番重要な障害は何ですか。
■非対称性が自社の強みなんだ
2人の力が拮抗したボクサーがいる。どちらが勝つのだろうか。同じように見えてても、2人の間に身長や腕の長さ、体力、経験など違いが多数あり、これが非対称性となる。そしてこの非対称性から優位性がうまれる。
自社の強みを考えてみた場合、自社として何年もの間、同じ分野で業務をこなしてきているため、当たり前になっているようなことが実は自社の強みになっていることも珍しくないと思います。
そして自社の強みは自社ではなかなか気づきにくいというものでもあるようです。
先日老舗の製造業の社長と話していたのですが、その会社はあまり他社に売り込めるような特別なことはやっていないといわれていました。ところが、よくお聞きすると、その会社にはその会社でなければ出来ないような提案をしていたり、信頼を得ていたりしています。
強みがないのが問題なのではなく、強みを知らないことが問題なのだと知りました。
中小企業は大企業とは異なり、焦点を絞って強みを生かしながら商売をしていく必要があり、他社との比較でなにが違うのか、を強く意識することが必要です。
そして、弱みと思っていたものは実は自社の特徴であって、逆にそれを生かすという考え方はいくらでもあるということはあります。中小であれば事業の方針転換は容易ですが、大企業では方針転換をしようとすれば多くの組織が影響を受けることになり、簡単ではありません。
小型のモーターボートであれば自由に海を動き回れますが、大型船であれば曲がるのにも時間がかかりますし、大きな港がなければ陸に上がることもできません。トヨタやソニーが飲食店を始めれば、どうしたんだろうとニュースになるでしょうが、うちが飲食店を始めても誰も何も言いません。
だから強み、弱みという区別の仕方ではなく、違い(非対称性)に注目する必要があると思います。
あなたへの問い
□あなたの会社が他社と違うところは何ですか。
■どこなら勝てるか?
売り上げや採用で課題があるとしても、自社がもっているものを集中させてその課題を乗り越えられなければ意味がない。
中小企業では、資金も人材も限度があり、できることは限られます。だからこそ一番大切な最重要ポイントに資源を集中させて、しかも実現可能なものでなければならないことを改めて確認しましょう。
要石となっている最重要ポイントに焦点を当てることと自社のリソースで取り組めば乗り越えられるという課題を設定して、これを戦略の第一歩とするのです。
そして、これはしっかりと時間と労力をかけて検討しなければならない問題だということです。
あなたへの問い
□あなたの設定した課題は最重要ポイントをカバーしていますか。
□あなたの設定した課題は実現可能ですか。
参考文献
※1 「戦略の要諦」(リチャード・P・ルメルト著、日本経済新聞出版)
AI技術で私たちの仕事はどう変わるのか?
■消滅した職業
「もうほとんど辞めてしまいましたよ」
私の知合いは浜松で特許の書類について英語翻訳の仕事をしていますが、周りの翻訳者は多くが仕事がなくなってしまい、今では知り合いを含めて数えるほどしか翻訳の仕事をしていないそうです。
最近のAI技術で仕事を追われる人たちが確実に表れ始めていることを感じます。
さて私の仕事はどうなるのだろうか。AIの波はホワイトカラーで働いている人たちに脅威となり、不安を与えています。
AIはどの職業に置き換わり、どの職業が生き残るのだろうか。
この投稿記事では、1980年代の人工知能の知識とそれ以後の法律家としての知識を駆使して、私なりに考えてみたいと思います。
あなたへの問い
□最近のAI技術であなたの仕事はどのように変わりましたか。
□今後AIがあなたの仕事をどう変えると思いますか?
■なぜ脅威や不安を感じるのか?
2020年の4月に起きたことを覚えていますか。当時の安倍首相が全国の小中学校を閉鎖し、緊急事態宣言の下、新型コロナウイルスが猛威を振るっていました。
中国、イタリアなど感染者が続々と死亡していく様子に世界中の人々が恐怖と不安を感じました。
そして今2024年10月の時点でコロナウイルスは人類がコントロールできる感染症になりました。
なぜあんなに恐怖と不安を感じたのでしょうか。
もちろんワクチンや治療薬がないことも原因ですが、なんといっても「わからないこと」が恐怖と不安を倍増していたのです。未知のウイルスがどのように感染し、どのように流行していくのか、わからない状態では対応のしようがなく、ただ家に閉じこもることしかできません。
AI技術はもちろんどのような広がりを見せて、今後どの職業が消えるのかについてわからない部分はあるのですが、ウイルスと違うのはこれは人間が作ったもので、その仕組みもわかっているということです。
だからまずAI技術の中心となっている仕組みを知ることが私の未来、あなたの未来にとって大切になるのです。
あなたへの問い
□AIがいろいろなことができるのはなぜか? 仕組みを知っていますか?
■AIがすごいように見えるのはなぜか?
あるエンジニアは、完成した製品のキズや不良を写真(画像)から検出するプログラムを作っています。
その人は画像をアメリカのAIツールを使っているのですが、「どうやっているかはわからないけれど、ちゃんと答えを出してくれる。」といいます。
この感想はAI、特に深層学習(ディープラーニング)の特徴をよく捉えていると思います。
要するに判断の仕組みは見えない(ブラックボックス)になってしまっているのです。
簡単な例から説明します。
例えば、猫という動物を知らない人でも、猫の写真とそうでない写真とを大量に見せてもらえば、猫を判断できるようになりそうだというのは感覚的にわかります。
これと同じように深層学習でも大量の画像データをコンピュータに読み込ませて学習させることで猫が写っている画像とそうでない画像を区別できるようになるのです。
ただ、人間であれば、猫の特徴を目や耳、ひげ、体の形などの特徴から猫を判断しますが、コンピュータは大量のデータから自動的に特徴を学習していくのでどこを特徴として捉えているのかがわかりません。
コンピュータは画像もデータ(数値の集合)としてしかとらえることができないので、学習した成果も大量の数値の集合(パラメータのセット)でしかなく、人間がこれを見て、猫のどこを特徴として捉えているのかはわからないブラックボックスになってしまうのです。
なぜ大量の変数の集合で猫が判断できるのか、ということですが、大量の元データとその答(猫がそうでないか)があればコンピュータの中で入力と出力から一番よい判断ができるようなネットワークを人間の力を借りないでも自動的に作り上げることができるからです。これを機械学習、自己学習などと呼ぶことがあります。
そうするとその大量の数字の集合で猫を判断できるようになるのです。
このように深層学習、機械学習ということもありますが、大量のデータを読み込ませるだけであとはコンピュータが一番良い判断基準を作っていくので、なぜそのような判断をしたのかというプロセスはわからないのが原則です。
これは画像データの場合ですが、文章にすればチャットGPTなどの生成AI技術となります。
なぜ生成AIは自然な日本語で答えを返すことができるのでしょうか。
これも大量の文章を前半を入力と後半を結果として学習させることで、大量の文章データから、質問に一番よい答えを出すことができるようになります。
また一つの文についても、例えば、「信号の色は、」ときたら次の単語は、青又は赤が自然であるということになり、「白」や「黒「という言葉は入りにくいということになります。
そして「信号が赤」まできたら、次に自然なフレーズは「車は停まる」といったものになります。
このようなこと繰り返して自然な文章を作っていくことになります。
ちなみにコンピュータは文字を理解したり画像を理解したりすることはなく、すべてを数値に置き換えて計算できるようにします。
さらにいうとこの数字(10進法)というのも人間が置き換えているにすぎず、コンピュータはオン(1)とオフ(0)の2つの区別しかできません。だから2進法で処理した大量のデータを10進法にしてわかるように表示したりするのも人間がその仕組みの部分を考えて表示できるようにしているということになります。
電球がついたり消えたりすることで部屋に人がいるかいないかがわかったりしますが、これは1ビットの情報を示しています。
そしてこのようなオンとオフのものすごい大量なつぶつぶがコンピュータの中に入っているわけです。
何よりも大切で知っておかなければならないことは、コンピュータは「何も考えていない」ということです。
見かけ上はコンピュータが人間のように考えて答えて見えるように見えてしまうかもしれませんが、コンピュータは大量の数字の集合から一番それらしい確率の高いものを並べているだけで、それは入力された大量のデータから「それらしい答え」を出力しているにすぎません。
この深層学習は大量のデータを高速で処理するコンピュータがなければ実現できません。この深層学習というアイデアとコンピュータの大量かつ高速処理がうまく組み合わされて、チャットGPTなど生成AIや画像認識などが脚光をあびるようになったというわけです。
あなたへの問い
□あなたの身近にあるAIはどのようなデータをもとに学習していますか。
■あなたの仕事はAIでなくなってしまうだろうか?
私の知り合いにとても腕のいいペンキ職人がいます。
この仕事はたぶんAIで置き換わることはしばらくはなさそうです。
ただ職人の動きをロボットに学習させて再現しようとする研究はあるのでそのような研究が進むと職人さんの仕事もなくなるかもしれません。
今一番使われている深層学習で成果を出すには、同じ種類の大量のデータ、統一されたルール、明確な目標とするものが必要であるとされています(※1)。
ますは、画像、文章(テキスト)、音声、数値(売り上げ、気温など)などが必要だということです。これがなければそもそも学習させる元となるものがないことになります。
そして一定のルールと目標です。翻訳については日本語→英語のルールは一定しており目標も明確、これらについては大量のデータで学習することができるため、AIにとって代わる可能性が高いということになります。
では弁護士業はどうでしょうか。
ある程度の法律相談であれば大量のデータをもとにそれらしい答えはできるため、AIでもなんとかなりそうです。
ただ弁護士業は、過去に事例がないものや判断が分かれそうな事案も多く、そうなるとAIが過去のデータからそれらしい答えをしても、弁護士の個性は発揮されないことになります。
また弁護士業は人と人とのつながりが大切で、同じ答えであっても機械がするのと人間が答えるのでは依頼者に対する安心感が違うのではないかと思います。
つまり、過去のデータだけでは対応できないもの、人と人とのつながりが必要なものについてはAIでは対応できず、人間の仕事になるのではないかと思います。
ただし大量のデータを元に一番よさそうな答が必要だという場面は多くありますからそういった仕事の部分はAIで置き換わっていくのは間違いなさそうです。
あなたへの問い
□AIの進歩で私たちの仕事はどう変わると思いますか?
■最後に覚えておきたい大切なこと
AIは何も考えていません。
そのことがとんでもないバイアスを生み出す危険性を秘めています。
極端な例えいうと有色人種の顔データが不足している学習プログラムで、人間をゴリラだと判定してしまうようなことが起こる危険性があります。
より深刻なのが築かれにくいバイアスです。
例えば元のデータが白人男性が圧倒的に多かったりすると、女性やアジア系の人に対して入社資格など基準が厳しくなったりすることがあるといわれています。
大量のデータで学習させてもそのデータで日本人や女性が圧倒的に少なければ、日本人や女性がその基準をクリアするのは難しくなるのは想像できることでしょう。資料として(※2)。
また深層学習では大量の個人情報やプライバシー情報を扱うことがあり、セキュリティが問題になりやすいということです。
日本でも個人情報が流出してしまったり、個人情報を抜き取られてランサム攻撃の被害が企業や自治体でも起きています。実例として(※3)。
今後はすべてのレベルで高いセキュリティ意識が求められることになります。
あなたへの問い
□AI技術を仕事に使う場合にどのようなリスクを想定しますか。
参考文献
※1 「AI 2041 人工知能が変える20年後の未来 (カイフ―・リー著)
※2 「AIファーストカンパニー」
※3 個人情報に対する不正アクセスについてシステム業者のセキュリティが問題になった裁判例として次のものがあります。
http://patent-law.jp/news/detail/?id=41
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
「外資に染まるニッポン観光産業」(選択2024年10月号より)
映画「フラガール」で有名になった福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」が米国投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに買収される。この米ファンドは宮崎県のシーガイアのほか、日本各地のホテルなどを多数保有しており今や国内最大のレジャー企業となっているそうです。
もちろんこの記事が指摘するようにファンドが長期的にこれらの観光資産を保有し続けることは考えにくく資金力で企業価値を上げることができれば売却など「エグジット」が予定されているはずです。
そしてそのときに日本の資本が入る可能性は小さく、やはり外国の資金で運用されることになりそうだということです。
資金がなくこのまま閉鎖するよりはいいともいえますが、日本本来の観光資産の多くが外資により運営され、その収益も外資が得るというのはやはり複雑です。こういったソフト面での再生についても日本本来の手法で何とかならないものか、これも地方創生の大きな課題といえそうです。
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
「ひとりで暮らす私たち──中高年シングル女性の生活」(世界2024年10月号より)
年齢40歳以上で配偶者のいない単身生活女性を「中高年シングル女性」
というくくりでその困窮した生活が問題になっているという。多くの職場で女性の賃金は低く抑えられていること、中高年となると飲食店などで働くことが難しくなってきていることからかなり困難な生活を強いられる状況のようです。
そして社会の目も厳しく、小泉政権時代から言われる自己責任論で、そのような身分になったのは自己の責任だという考え方が日本社会に浸透してきているといいます。
東京都知事選で2位になった石丸氏は、労働者や生活者の視点が全くなく、高齢者、障害者などに対する共感はないといいます。そして自己責任が内在化している若者にとっては、明確な社会的弱者は保護される一方で自分たちは放っておかれることから、社会的な政策にはむしろ反発し、それなら自分たちのことは自分たちでするから、という考えになっていくといいます。
確かに、高齢者は社会的弱者というよりも今や人口で多数派になろうとしていますし、障害者は手帳があれば優遇措置を受けることができます。一方若者は必ずしも満足な生活を送れている人ばかりでなく、高齢者優遇の社会で肩身の狭い思いをしているということもあります。実際に引きこもりの若者も多数います。
そうなると日本人口の大多数が社会的弱者ではないかという疑問すら起きてくます。
いずれにしてもステレオタイプ的に社会を見ることが危険であると改めて感じました。
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司