「才能の科学」(マシュー・サイド)

 著者の処女作ですが、新しい発見に驚かされます。

 著者自身が才能あふれる卓球選手とされ、2度のオリンピックに出場した経歴とその失敗を客観的に観察しています。

 スポーツにしても芸術にしても傑出するために必要不可欠なのは1万時間の効果的な練習であり、10年程度は必要になるという仮説を様々な実例を通じて検証しており、その徹底した科学的アプローチに感心させられます。

 例えば、天才の代名詞とされるアマデウスモーツァルトでさえ、教育熱心で音楽家であった父親から長時間にわたる練習を経ていること、傑作と言われる楽曲については20代になってからのものであることなどから天賦の才能ではなく、正しい長時間の練習を繰り返した結果でしかないとのことでした。

 また陸上競技で黒人選手が傑出した成績を収めているのも遺伝子の特異性があるわけではなく、高地での長距離通学の習慣が根底にあることなどを解いています。

 そして、黒人選手は身体能力に優れているということは知能で劣るというステレオタイプとセットになっており、このステレオタイプが黒人選手に機会とモティベーションを与えているからこそ、黒人のスポーツ選手が傑出した結果を生み出しているのだとしています。

 私たちはこのようなステレオタイプを取り除いて世界を見れば、もっと異なる世界が見えるであろうし、そうすることが未来の世界を変えていくのだという筆者の信念は、とても共感させられるものです。

 多様性が重視される現在の日本でも、ステレオタイプをもって特定の集団に属する人たちを見ることの危険性は常に気を付けなければならないものだと思います。

 

水野健司特許法律事務所|技術・知的財産、外国企業との契約書を中心に解決 (patent-law.jp)