「戦略の要諦」(リチャード・P・ルメルト著)

 フォンテーヌブローの森にはボルダリングで有名な壁があり、多くの挑戦者が征服しようと試みているそうです。ボルダリングが何かは私は知りませんが、重要な難所があり、そこに全精力を集中しないとクリアすることはできないらしいです。

 この著書を読むまでは私自身も目標設定と戦略策定を結び付けて考えていて、例えば売り上や利益の目標を立てることで戦略ができたような感覚でいました。

 著者は目標をいくら設定してもそこから戦略が自動的に生み出される装置はなく、目標と戦略に何の関連もないことを強調しています。

 戦略とは、どこで、だれと、どのように戦うかということを決めるものであり、状況の変化、知識と経験、リソース、機会などの要素を緻密に分析して具体的な行動計画を決めなければ意味がなく、それは重要な課題について直視して変化を伴う居心地の悪さや痛みを伴うものであるということです。

 確かに戦略というと、社員や関係者を鼓舞するためにポジティブな宣言になりがちで、例えば、顧客満足を高める、売り上倍増、利益率の改善などといった目標設定になりがちな面があります。

 著者に言わせれば、それは何の根拠もなく「とにかく頑張れ」と怒鳴っているコーチのようなものだということになりそうです。

 ただし、難しいのは状況をいくら精緻に分析しても自動的に戦略が決まることはなく、それは絵の具を分析しても絵を描くことはできないのと同じであるということです。

 結局のところ戦略は重要な課題に集中し、実現できる限界を探らなければならないということで、多くの経営者が目標を設定することと取り違えていること、見栄えのよいものとすることに労力を使っていて、実現性の乏しいものになっていることに問題があるということでした。

 改めて目標と戦略の意味を明確に分けて本当の意味で重要な課題にリソースを集中させる現実的な戦略を策定しなければならないと改めて考え直しました。

水野健司特許法律事務所|技術・知的財産、外国企業との契約書を中心に解決 (patent-law.jp)