「多様性の科学」(マシュー・サイド)

 会社などの組織で多様性を高めることが大切だということはわかっていても、効率や生産性とは相容れないのではないかという疑念が伴います。それは多様性よりも能力の高い者を集めて精鋭集団とした方が、高い生産性を得られるのではないかということが直感的には正しいいように思えるためです。

 筆者は多様性がもたらす優位性を科学的なアプローチで説明しています。

 具体的には、なぜCIAは9.11テロの兆候をいくつも確認していながらテロの実行を阻止することができなかったのか。その原因の一つとして挙げられているのが、能力を優先させた人事のためアングロサクソン系男性が圧倒的に多い人員構成であった。そのため洞窟から聖戦を呼びかけるビンラディンの姿を時代錯誤であると見誤ってしまい、それがイスラム教徒にとって何を意味するのかを完全に見逃してしまったということです。

 注目すべき点は、当時のCIA職員はみな極めて優秀で特に任務を怠ったという事情はなかったということです。成績優秀な白人男性の集団では見つけることのできない盲点があり、アルカイダはそれを見事についたのです。

 例えば、魚が泳いでいる映像を見ても、日本人は背景に着目し、アメリカ人は魚に着目するという特徴があるそうで、そのため、日本人であれば、背景の色が変わったことにすぐ気が付くが、アメリカ人は個々の魚をみているため、それに気が付かないということが起こるらしいです。

 これはイノベーションについても同じで、多様な人たちが交流し合うシリコンバレーのスタートアップ企業が高い成果を挙げていることも説明ができるということでした。

 日本でイノベーションが起きなくなった原因の一つも単一的な価値観とそれを生み出す教育システム、障碍者や外国人など少数者を受け入れようとしない風土などに見出すことができるように思います。